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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)7740号 判決 1991年12月19日

原告

杉本一博

被告

広芸運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一四六五万九三八一円及びこれに対する昭和六二年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金六〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故(「本件事故」)の発生

日時 昭和六二年八月二九日午前五時四〇分ころ

場所 東京都葛飾区小菅三丁目一番地首都高速道路六号線下り

加害者 被告岡本実(「被告岡本」)

右運転車両 大型貨物自動車(大阪一一う二七九六、「岡本車」)

右保有者 被告広芸運輸株式会社(「被告広芸運輸」)

被害者 原告(昭和三〇年一二月七日生)

右運転車両 普通貨物自動車(静岡一一か一〇五七、「原告車」)

事故態様 岡本車が走行車線を走行中、山下豊信(「山下」)運転の大型クレーン車(大宮九九さ二七一、「山下車」)に追突し、その直後、岡本車に原告車が追突し、さらに、そこへ追越車線を走行してきた佐藤日出夫(「佐藤」)運転の大型貨物自動車(横浜一一き九二八一、「佐藤車」)が右各衝突により追越車線にはみ出していた原告車に衝突し、その結果、原告が負傷した。

2  責任

(一) 被告広芸運輸は、本件事故当時、岡本車を所有していた。

(二) 本件事故は、被告岡本が、進路前方を走行する山下車との間に十分な車間距離をおかなかつたこと、山下車の動静を注視していなかつたこと、山下車との衝突の危険を認識した時点で対応を誤り適切な減速措置をとることをしないで安易にハンドル操作によつて右危険を切り抜けようとしたことなどの過失に基づく。

3  原告の受傷内容、治療経過及び後遺障害

原告は、本件事故により頭部外傷によるくも膜下出血及び脳挫傷、右腓骨骨折等の重傷を負い、そのため昭和六二年八月二九日から同年九月一三日までは亀有病院において、さらに同日から同年一一月二九日までは静岡日赤病院においてそれぞれ入院加療を受け、その後、昭和六三年五月三〇日までの間、同病院において通院加療を受けたが、同日、記銘力障害、失計算、判断力・思考力低下、書字障害、右小脳失調、右握力低下、言語障害、脳波異常及び外傷性てんかんの後遺障害を残し、症状固定に至つた。

後遺障害のうち外傷性てんかんについては、抗けいれん剤を服用するも、抑えきれず、何時何処でけいれん発作が生じるか分からない状態であり、近距離以外の一人歩きができない状態である。また、その他にも、原告は、右半身が麻痺し、平衡感覚がなく、歩行が覚つかない上に、食事、排便等は家族の介助がないとできないうえに、感情の起伏が激しい。

なお、右後遺障害は、被告岡本及び前記佐藤の契約する両自賠責保険に対する被害者請求の際、いずれも三級三号の認定を受けた。

4  損害

(一) 治療費 労災保険より支払われたため原告は負担していない。

(二) 入院雑費 金一一万九六〇〇円

原告は、前記入院期間中、日額一三〇〇円の入院雑費を要した。

(計算)

1,300×92=119,600

(三) 付添看護費 金四万九五〇〇円

原告は、前記入院期間中の一五日間、家族による付添看護を受け、その費用は日額三三〇〇円である。

(計算)

3,300×15=49,500

(四) 通院交通費等 金一万六四〇円

原告は、前記転医の際の東京静岡間の東名高速道路通行料を含む通院交通費として、付添人の分も含めて頭書の金額を要した。

(五) 文書料 金二万九二二〇円

(内訳)

本件診断書 三通

診療報酬明細書 三通

後遺障害診断書 二通

事故証明 一通(六〇〇円)

フイルム及びコピー代(六二〇円)

(六) 介護費 金一五八一万八四〇〇円

(計算)

60,000×12×21,970=15,818,400

(七) 休業損害 金一五六万五八二四円

原告は、本件事故当時、スズワ運輸という運送会社において運転業務に従事し、本件事故前三か月間、合計金五七万三四四六円の給与を受け取つていたところ、本件事故により、昭和六二年八月三〇日から昭和六三年五月三〇日までのうちの二七四日間(準備書面中、「二七六日」とあるのは誤記)休業を余儀なくされ、頭書の金額の休業損害を被つた。但し、原告は、事故後も給与として金一八万円の支給を受けた。

(計算)

573,446/90×274-180,000=1,565,824

(八) 逸失利益 金七五六九万二五六六円

原告(昭和三〇年一二月七日生)の本件事故による逸失利益は、その後の昇給を考慮し、男子三二歳の平均賃金月額三一万六七〇〇円を基礎として計算した頭書金額となる。

(計算)

316,700×12×1.0×19,917=75,692,566

(九) 慰謝料

傷害に対するもの 金一八〇万円

後遺障害に対するもの 金一六〇〇万円

(一〇) 弁護士費用 金三〇〇万円

5 四〇四四万二二八〇円が既に原告に支払われている。

6 よつて、原告は、被告広芸運輸に対し岡本車の運行供用者としての責任(自賠法三条)に基づき、被告岡本に対し右不法行為に基づき、各自損害賠償の内金として六〇〇〇万円及びこれに対する事故の日である昭和六二年八月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)のうち、事故態様は否認し、その余は認める。

本件事故の態様は、岡本車が走行車線を走行中、前方を低速で走行していた山下車後部に接触し、その後、相当の時間的間隔のあいた後、停止していた岡本車に原告車がノーブレーキで追突し、さらにその後、原告車と佐藤車が衝突したというものである。

2  同2(責任)のうち、(一)(岡本車の所有関係)は認め、(二)(被告岡本の過失)は否認する。

3  同3(受傷内容等)は知らない。

4  同4(損害)は、否認する。

5  同5については、原告が、本件事故により合計金四〇三六万円を受け取つたことは認めるが、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1  免責(被告広芸運輸に対する運行供用者責任の主張に対抗するもの)

本件事故は、原告の車間距離不保持、前方不注視、制限速度違反等の過失に基づくものであつて、被告らには、岡本車の運行による本件事故発生につき過失はなく、且つ、事故当時の岡本車には構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。

2  過失相殺

本件事故は、原告の岡本車との車間距離不保持、前方不注視、制限速度違反の過失が原因となつている。

3  損益相殺

原告は、本件事故により、自賠責保険金から金四〇三六万円の給付を受けた。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2は否認し、3は認める。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の事実は、事故態様を除いて、当事者間に争いがない。

二  事故状況

1  現場の状況及び規制

成立に争いのない甲第八号証、弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の真正が認められる甲第九号証及び第一〇号証によれば、本件事故現場は、自動車専用道路上であり、その幅員は八・二メートルあつて、走行車線と追越車線の二車線からなる見通しの良い直線区間であるが、進行方向に向かつて緩やかな(〇・七パーセント)上り勾配となつていたこと、また、最高速度は毎時六〇キロメートルに制限されていたことがそれぞれ認められる。

2  衝突経過

前掲甲第八号証ないし第一〇号証、被告岡本の本人尋問の結果(但し、後記の信用できない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  岡本車と山下車との衝突

被告岡本は、自車(「岡本車」)を運転して本件事故現場の手前の走行車線を毎時約八〇キロメートルの速度で走行中、前を行く四トントラツクが追越車線に車線変更してその前を低速(毎時三〇ないし四〇キロメートル)で走行していたクレーン車(「山下車」)を追い越して行くのを認めた。そこで、被告岡本も、右四トントラツクと同様に追越車線に車線変更して山下車を追い越すべく、方向指示器を点滅させて追越車線に入ろうとした(このとき、被告岡本は特に減速措置をとつてはいない。)。

しかし、丁度その時、追越車線の後方から二台の大型車両が接近しつつあつたため、被告岡本は、当初、その一台目の大型車が通過した後に追越車線に入る予定であつたが、右一台目の大型車通過後も車線変更の時期を逸し、結局、二台目の大型車の通過を待つたうえで追越車線に入ろうとして右に転把して自車を若干追越車線にはみ出させたものの、その時には既に山下車の直後に追いついてしまつており、そのまま自車の左前部を山下車の右後部に衝突させた(第一衝突)。なお、岡本車は、右衝突によつて減速し、その後も山下車の右後方に位置していた。

(二)  原告車と岡本車との衝突

右第一衝突の直後、岡本車が減速しつつも未だ右前方に進行していた時、後続してきた原告車が岡本車の右後部に追突し、そのため原告車の運転台(キヤビン)が中程から裂けるように損壊した(第二衝突)。また、警視庁高速道路交通警察隊による事故後の捜査においては、右追突の際原告車の左前部が岡本車の右後部に追突し、その時に原告車は車線境界線を跨ぐような位置関係にあつたものと把握されていた。

(三)  佐藤車と原告車との衝突

原告車が右第二衝突後右斜め前方に進行してさらに追越車線にはみ出したところ、佐藤が自車(「佐藤車」)を運転して追越車線を後方から毎時八〇キロメートルの速度で接近し、右原告車を認めてこれとの衝突を避けるべく右に転把し、道路右側に車体を擦りつけながら自車の左前角を原告車の右側面に衝突(第三衝突)させたため、原告車はその衝突で進行方向の左四五度に向きを変え、走行車線上に停止した。

(四)  佐藤車と岡本車との衝突

岡本車は、第二衝突後もさらに約一〇メートル右前方に進行し、車体前部の右半分を追越車線にはみ出させたところを、第三衝突後なおも追越車線を約二〇メートル前進してきた佐藤車と衝突した(第四衝突)。

これに対し被告らは、第一衝突後岡本車が停車し、その後相当の時間が経過した後に、原告車が岡本車に追突してきた旨主張し、被告岡本も本人尋問において右主張に沿う供述をしている。

しかしながら、岡本車が第一衝突の後、第四衝突地点まで約一〇メートルほど進行したことは前認定のとおりであり、被告岡本が供述するように第一衝突後岡本車が停止していたとするならば、岡本車はその後の原告車の追突による衝撃によつて再び進行を開始し前方に押し出されたことにならざるをえないが、被告岡本は同じ本人尋問において、原告車に追突された際あまり大きな衝撃は感じず、かつ右追突によつて岡本車が前に押し出されたこともなかつたと供述しており、被告岡本の供述はこの点において明らかに矛盾がある。また、前掲甲第九号証によると被告岡本自身が保険調査会社の係員に対し、第一衝突後、「即時にブレーキを踏み減速したと同時に後続車が追突してきた」旨述べていたことが認められることなども考え併せると、結局、この点に関する被告岡本の本人尋問における供述はにわかに信用できず、他に前認定を左右するに足りるものはない。

3  事故の責任

(一)  被告岡本の責任

(1) 第一衝突について

右認定の道路状況、規制、各衝突経過等を綜合すると、本件一連の多重衝突は、被告岡本が追越車線に車線変更して山下車を追い越そうとして失敗したことにより発生した第一衝突に端を発し、そのため岡本車が急速に減速したことに起因するものと解されるところ、右第一衝突は、専ら、追越車線を通過する他車に気を取られて前方を注視せず、山下車との接近に気付かなかつた被告岡本の過失に基づくものであつたと解するのが相当である。

なお、被告らは、第一衝突の発生については、高速道路であるにもかかわらず低速度でクレーン車を走行させていた山下に責任があると主張するが、本件道路は高速自動車国道ではない自動車専用道路であるし、山下は緩やかな上り勾配となつている走行車線を毎時三〇ないし四〇キロメートルの速度で走行していたに過ぎないのであるから、一般的にもこの程度の低速車の存在は予想でき、実際にも被告岡本は、前方の四トントラツクが追越車線に進路を変更したのを後方から見ていたことからすると、右四トントラツクの前にそれより遅い車両の存在することを容易に予測できたものと推認しうる。

また、被告岡本は低速車(山下車)を現認した後も制動措置をとることなく且つ方向指示器を点滅させるなどしており、被告岡本の当時のこのような対応からすると、同人が当時山下車と衝突する切迫した危険を感じていたものとは到底認められない。

これらの事情に照らすと、被告岡本車と山下車は通常の追越車両と被追越車両の関係にあつたに過ぎないと解され、故に山下には右第一衝突の発生につき特に落ち度はなかつたものというべきである。

(2) 第二衝突について

さらに、後記のように原告にも過失があつたとはいえ、前記認定のように、一般道路と比較して車の流れに従つた円滑な走行が一般道路よりも強く期待される自動車専用道路において、岡本車が山下車に追突するという後続車の運転者からは通常予測困難な原因により、それまでの岡本車及び原告車の速度(毎時八〇キロメートルと毎時三〇ないし四〇キロメートル)並びに追突後の岡本車と山下車の位置関係からすると、短時間のうちに少なくとも毎時四〇キロメートル近く減速したという事情がある以上、第一衝突における被告岡本の右不注意が第二衝突の一要因となつたものと推認すべきである。

(3) 第三衝突について

また、後記の原告車のように、後続車が先行者に追随して車線変更しようとして、その先行車に車線境界線上で追突した場合、さらに追越車線を後続してくる車両と衝突することは通常ありうべき事態であるから、第三衝突もまた被告岡本の第一衝突における前記不注意に起因するものというべきである。

(4) 以上によれば、被告岡本は、第二衝突及び第三衝突についても責任があると認められる。

なお、原告が主張する被告岡本のその余の過失については、制限速度不遵守の点を除き、右の前方不注視に加えてこれを認めるに十分な証拠がない。

(二)  原告の責任(過失相殺)

前記認定の原告車及び岡本車の衝突部位並びにその衝突地点に関する捜査機関の判断、原告車の破損状況並びに第一衝突と第二衝突との時間差の程度に、被告岡本の本人尋問の結果において、追越車線の後続車として他の車両(二台の大型車)の接近には気づいたとしながら、原告車が視界に入つた旨の供述が何等なされていないことを考え併せると、原告車は、岡本車の後方の走行車線上を毎時八〇キロメートル前後の速度で走行中、前方の岡本車が、追越車線を後方から来ていた二台の大型車の通過後、方向指示器を点滅させて追越車線に車線変更しようとしていたのに追随し、岡本車との間に十分な車間距離を保持しないまま追越車線への車線変更を開始したところ、岡本車が前記の第一衝突により急減速したため、その直後、岡本車に追突し(前記第二衝突)、さらに丁度そこへ追越車線を走行してきた佐藤車とも衝突したもの(前記第三衝突)と推認することができる。

したがつて、第二衝突及び第三衝突は、原告が車間距離を十分保持せずに岡本車に追随して追越を開始した過失もその一因となつているものと解すべきである。

なお、被告らが主張する原告のその余の過失については、制限速度不遵守を除き、右車間距離不保持に加えてこれを認めるに足る十分な証拠がない。

(三)  過失割合

前記衝突態様並びに双方の前記過失内容を総合勘案すると、本件事故の発生における被告岡本と原告の過失割合は、それぞれ六割対四割とするのが相当と認める。

なお、制限速度違反の点については、双方ともに認められるので、右認定の過失割合を増減する事情とはならないものというべきである。

三  請求原因3(原告の受傷内容、治療経過及び後遺障害)について

弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正が認められる甲第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし三、甲第三号証の一及び二、第四号証、第一一号証ないし第一四号証によれば、以下の事実が認められる。

1  受傷内容及び治療経過

原告は、本件事故により、頭部外傷によるくも膜下出血及び脳挫傷、右腓骨骨折等の傷害を負い、そのため昭和六二年八月二九日から同年九月一二日までは医療法人謙仁会亀有病院において、さらに同月一二日から同年一一月二八日までは静岡赤十字病院においてそれぞれ入院加療を受け、その後、昭和六三年五月三〇日までの間(実日数一六日)、同病院において通院加療を受け、同日、症状固定に至つた。

2  後遺障害

原告は、前記傷害により、記銘力・計算力・判断力・思考力の各低下、書字・言語障害、右小脳失調(小脳性運動失調)、右握力低下等の後遺障害を残したところ、被告らの契約する自賠責保険において、自賠法施行令別表中の第三級三号に該当する旨の認定を受けた。

四  損害

1  入院雑費 金一一万九六〇〇円

原告は、前記九二日間の入院期間中、経験則上日額一三〇〇円の入院雑費を要したものと推認されるから、その損害は頭書金額となる。

2  付添看護費 金四万九五〇〇円

前掲甲第一号証の一によれば、原告は、前記入院期間中のうちの一五日間、家族による付添看護が必要であつたと認められるところ、これによる損害は経験則及び弁論の全趣旨より日額三三〇〇円を下らないものと推認されるから、その総額は頭書金額になる。

3  通院交通費等 金一万六四〇円

弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の真正が認められる甲第四号証によれば、原告は、前記亀有病院から静岡十字病院に転院するにあたり、東京静岡間の東名高速道路通行料等の交通費として金七〇〇〇円を支出し、また、昭和六二年一二月八日から昭和六三年五月三〇日にかけて、静岡赤十字病院に計一三回通院した際、往復のバス運賃として毎回金二八〇円を支出したことがそれぞれ認められるところ、原告の当時の住所地、受傷内容、治療経過等を勘案するとこれらの支出はいずれも本件事故と相当因果関係があるものと認められる。よつて、これによる原告の損害は頭書の金額となる。

(計算式)

7,000+280×13=10,640

4  文書料 二万七二二〇円

前掲甲第二号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、原告は、受傷内容及びその治療経過に関する資料の収集費用として合計二万七二二〇円を支出した事実が認められ、且つこれらも本件事故と相当因果関係にある損害と認めるが、原告主張のその余の金額についてはこれを認めるに足る証拠がない。

(内訳)

一般診断書 三通(甲第一号証の一ないし三)

3,000×3=9,000(円)

診療報酬明細書 三通(甲第二号証の一ないし三)

3,000×3=9,000(円)

後遺障害診断書 二通(甲第三号証の一及び二)

4,000×2=8,000(円)

事故証明 一通(甲第七号証)600(円)

フイルム・コピー代 620(円)

5  介護費 金一五八一万八四〇〇円

前記認定の後遺障害の内容・程度及び前掲甲第一一号証を総合すると、原告は本件事故により、将来にわたり、食事、排便、着衣等の日常動作を独力で行う能力を完全に喪失した訳ではないが、これを相当程度制限されたため家族による応分の介助を要し、その費用は、原告の主張する月額六万円を下らないものと認められるから、原告主張の四一年間(退院時(三一歳)における男子平均余命は約四五年である。)につき右金額をもとにホフマン式計算法により中間利息を控除した頭書金額も本件事故による損害と認める。

6  休業損害 金一五二万七八七一円

弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の真正が認められる甲第五号証、前記認定の治療経過及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、スズワ運輸株式会社に勤務し、昭和六二年六月から同年八月までの三か月(九二日)間に五七万三四四六円の収入を得ていたところ、本件事故により、昭和六二年八月三〇日から昭和六三年五月三〇日までのうちの二七四日間休業を余儀なくされたが、昭和六二年九月分の給与として一八万円の支払を受けた事実が認められることから、これによる損害は計算によれば頭書の金額となる。

(計算式)

573,446/92×274-180,000=1,527,871(小数点以下切捨て、以下同じ。)

7  逸失利益 金五五〇六万六二〇五円

前記認定の後遺障害の内容・程度及び前掲甲第一一号証を総合すると、原告は、本件事故により、症状固定の日の翌日(当時三二歳)から一般に就労可能とされる六七歳に至るまでの三五年間、その労働能力の全てを喪失したものと認められるところ、前掲甲第五号証及び弁論の全趣旨により原告の存在及びその成立の真正が認められる甲第六号証によれば、原告は、昭和六二年一月一日から同年八月二九日までの間に、一八二万五五一五円(甲第六号証にある給与支払金額二〇〇万五五一五円の中には昭和六二年九月分として支払われた一八万円が含まれているから、これを控除する。)の給与の支払を受けた事実が認められるから、本件事故による原告の逸失利益は、ホフマン式計算法により中間利息を控除して計算した頭書金額となる。

(計算式)

1,825,515×365/241×19.917=55,066,205

8 慰謝料 計金一七〇〇万円

(一)  傷害慰謝料 金一八〇万円

前記認定の受傷内容及び治療経過を勘案すると、原告に対する本件事故による傷害慰謝料は、金一八〇万円とするのを相当と認める。

(二)  後遺障害慰謝料

前記認定の後遺障害の内容・程度を勘案すると、原告に対する本件事故による後遺障害慰謝料は、金一五二〇万円とするのを相当と認める。

9 損害合計

右の損害額を合計すると金八九六一万九四三六円となる。

五  損益相殺

原告が、自賠責保険金として金四〇三六万円を受領したことは当事者間に争いがなく、また、弁論の全趣旨により、労災保険給付として金八万二二八〇円の支給を受けたことが認められる(合計四〇四四万二二八〇円)。

六  残額

右認定に基づく計算によると、原告に対する弁護士費用を除く賠償額は、一三三二万九三八一円となる。

(計算式)

89,619,436×(1-0.4)-40,442,280=13,329,381

七  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の経過に右残額を総合勘案すると、原告に生じた弁護士費用のうち一三三万円を被告らに負担させるのが相当であると認める。

八  結論

よつて、被告広芸運輸は運行供用者としての責任(自賠法三条)に基づき、被告岡本は不法行為責任に基づき、原告に対し、各自金一四六五万九三八一円及びこれに対する事故の日である昭和六二年八月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

以上のとおりであるから、原告の被告らに対する請求は、右の限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条及び九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 松井英隆 佐茂剛)

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